FIFAワールドカップ、ベルギー対エジプトは2026年6月16日 04:00 JSTに行われる。ベルギーがボールを握り、エジプトが耐えて刺す――大枠は見えやすいが、見えやすい試合ほどブックメーカーの値付けはときどき背伸びする。今回もその匂いがある。
ベルギーはもちろん格上だ。デ・ブライネがテンポを作り、ティーレマンスが中盤を整え、ドクがサイドで相手の足首に小さな火災警報を鳴らす。トロサールやデ・ケテラーレもいて、前線の技術と発想はかなり豊かだ。クルトワが後ろにいる安心感も大きい。
ただし、ここで大事なのは「ベルギーが強いか」ではなく、「ベルギーが余裕を持って突き放せる試合か」だ。市場はベルギーの名前を見て、つい赤い悪魔に立派な羽まで描き足しているように見える。だが実際のメンバー事情を見ると、絵の具は少し乾いていない。
ルカク不在の先発は圧力の質を変える
最大のポイントはルカクが先発予定ではないこと。ベンチには入れる見込みでも、開始から相手センターバックを背負い、クロスを吸い込み、こぼれ球を呼び込むあの重量感は使えない。ベルギーはより流動的に崩す形になるが、低く構える相手を押しつぶす単純な迫力は少し落ちる。
デ・ケテラーレの動き直しやリンクプレーは魅力的だが、エジプトのように中央を固めてくる相手には、最後に「ここをどけ」と言える存在が欲しくなる時間帯がある。ドクの突破、デ・ブライネのラストパス、トロサールの抜け目なさ。材料はそろっているが、料理が毎回フルコースになるとは限らない。初戦の昼食に、いきなり七面鳥を丸焼きする必要もない。
ベルギーの最近の大勝には、相手の強度を考慮する必要がある。チュニジア戦や予選での快勝は攻撃のリズムを示した一方で、低いブロックを崩し切れなかった試合もあった。エジプトはその「嫌な密度」を持ち込めるチームだ。
エジプトは守るだけの客ではない
エジプト側はローテーションではなく、初戦から勝負の布陣で来る見込みだ。サラーは先発に戻ると見られ、マルムーシュも前線の柱として出てくる。これはベルギーにとってかなり現実的な警告灯だ。ボールを失った瞬間、ピッチの反対側でサラーが助走を始めていたら、守備者の心拍計はちょっとしたロックフェスになる。
エジプトはスペイン相手に無失点で粘り、ブラジル相手にも大崩れしなかった。単なる引きこもりではなく、相手の圧力を受けながら試合を壊さず、チャンスが来たら縦へ出るチームである。サラーとマルムーシュの移行攻撃は、ベルギーの最終ラインに落ち着く暇を与えない。
もちろんエジプトにも不安はある。モスタファ・モハメド不在で、前線の基準点としての厚みはやや薄い。押し込まれたときに長いボールを収め、全体を押し上げる力は限定されるかもしれない。それでも、サラー、マルムーシュ、ジコのスピードは一発で試合の温度を変えられる。火力というより、ポケットに忍ばせた発火装置だ。
ベルギー守備の未完成感がハンデに効く
今回のハンディキャップで鍵になるのは、ベルギーの守備の組み合わせだ。デバストは間に合わず、センターバックの人選も完全に固まり切っていない。ガルシア監督は慎重に準備しているが、サラーとマルムーシュを相手にするには、連係の小さなズレが大きな穴になる。
ベルギーのサイドバックが高い位置を取れば、攻撃は厚くなる。その代わり、失った後の背後はエジプトの大好物だ。カスターニュやムニエが前に出た瞬間、カウンターの出口を消せるか。ここを処理できればベルギーの試合だが、少しでも遅れれば、エジプトは少ない手数でゴール前まで来る。
つまり、このカードは「ベルギーが勝つかどうか」よりも、「ベルギーが安全圏まで突き放せるか」が焦点になる。初戦で、相手は勝ち点を狙って現実的に構える。ベルギーもエジプトを軽く見ていない。となれば、試合は大味な殴り合いではなく、ベルギーが鍵穴を探し、エジプトがカウンターのナイフを磨く展開になりやすい。
ブックメーカーはベルギーの格と攻撃陣の名前をかなり素直に評価している。そこは間違っていない。ただ、その評価が「快勝」まで滑っているなら話は別だ。ルカクが先発しない攻撃、未確定感のある最終ライン、そしてエジプトの本気度と縦の怖さ。これらを並べると、エジプトが接戦に持ち込むシナリオは十分に自然だ。
個人的には、ベルギーが主導権を握る絵は見える。ただ、エジプトが何もできずに押し流される絵は見えにくい。サラーがいる試合で「安全運転」と言い切るのは、雨の日に白いスニーカーで水たまりをまたぐようなもの。だいたい、どこかで跳ねる。




