ワールドカップの初戦は、たいてい慎重さがスーツを着て入場してくるものだが、このカードは少し違う。フランスは守って耐える古典的な大会仕様というより、前に人数を置いて相手を押しつぶしにいく顔ぶれになりそうだ。対するセネガルも、ただ耐えて拍手をもらうために来たチームではない。
市場がややお行儀よく構えすぎているように見える理由は、まさにそこにある。フランスが主導権を握るという見立て自体は自然だが、その主導権の握り方が問題だ。ボールを持って安全運転するというより、アクセルを踏みながらハンドルも切るタイプの試合運びになれば、相手ゴール前だけでなく自陣の背後にもイベントが発生する。
フランスの前傾姿勢は魅力であり火種でもある
フランスの予想される顔ぶれは、メニャン、クンデ、ウパメカノ、サリバ、テオ・エルナンデスという守備の軸を保ちつつ、前線にはエムバペ、デンベレ、オリーズ、ドゥエといった推進力と即興性を備えた選手が並ぶ見込みだ。チュアメニとラビオが後ろで支えるとはいえ、これは明らかに相手を押し込むための選択である。
直近の準備試合でも、フランスの攻撃はかなりよく回っていた。北アイルランド戦ではオリーズが主役になり、エムバペに得点がなくてもチャンスは作れていた。攻撃の引き出しは多く、鍵束というより工具箱だ。相手が一つの扉を閉めても、別の窓から誰かが顔を出してくる。
ただし、完璧なリハーサルだったわけではない。北アイルランド戦では一瞬の背後対応から失点し、コートジボワール戦でもスピードと縦へのアタックに苦しんだ。攻撃の人数を増やせば迫力は増すが、同時に帰り道の混雑も増える。サッカーの神様は、前に出たチームの背中をわりと正直に見ている。
セネガルは受け身の挑戦者ではない
セネガル側も重要な材料が揃っている。クリバリとイドリッサ・ガナ・ゲイェが戻ってくる見通しで、守備の統率と中盤の奪取力は大きく上がる。アメリカ戦で見えた守備の不安は無視できないが、あの時の傷をそのまま本番の評価に貼り付けるのは少々雑だ。ばんそうこうを貼っただけでなく、医者も戻ってきたようなものだ。
攻撃ではマネ、イスマイラ・サール、ニコラス・ジャクソンが見込まれる。ここはフランスの高い位置取りに対して、かなり相性のいい刃を持っている。奪ってからサイドの背後、あるいはセンターバックの脇へ一気に走る形は、フランスが嫌がる展開そのものだ。美しいポゼッションでなくても、危険は十分に作れる。
サウジアラビア戦は重く、流れも滑らかではなかった。それでもセネガルは本番を単なる我慢大会にはしないはずだ。現地報道でも、この試合は強豪への挑戦ではなく、自分たちの野心を示す舞台として語られている。思い出話ではなく、現在地を世界に見せる試合。こういうモチベーションは、時に戦術ボードよりもよく走る。
勝敗よりも試合の温度に注目したい
フランス勝利の見方は分かりやすい。選手層、個の破壊力、試合を支配する力を考えれば、優位に立つのは当然だ。ただ、そこはすでにかなり丁寧に織り込まれている印象がある。クリバリとゲイェが戻るセネガル相手に、フランスが一方的に突き放す前提で攻めるのは、少し気難しい猫を撫でにいくようなものだ。
むしろ狙いたいのは、試合が早い段階から互いの急所を見せ合う流れだ。フランスは前線の枚数と質でセネガルを押し下げる。セネガルはその圧力を受けながらも、マネやサール、ジャクソンの走力で空いたスペースを突く。これが噛み合うと、静かなチェスというより、駒が勝手に全力疾走する盤面になる。
もちろん初戦特有の緊張感はある。両者とも無謀に殴り合う必要はないし、フランスもセネガルも大会の入り方を大切にするはずだ。ただ、この組み合わせでは慎重さだけで試合を包み込むのが難しい。片方が押し込み、もう片方が走る。そんな構図になれば、危険な場面は自然に増える。
ブックメーカーの線は、フランスの格と初戦の慎重さを少し強めに見ているように映る。だが実際のピッチでは、フランスの前傾した設計が攻撃力を上げる一方で、セネガルの速い攻撃にも酸素を与える。そこに、この試合の面白さと狙い目がある。火を消すための水を運んでいるうちに、反対側でまた煙が上がるタイプの一戦だ。




